1.はじめに

○中学3年生の卒業文集(1979年)の「20年後の私」のコーナー より

1999年。どこかに勤めながら,毎週,週末になると天体写真を撮るために高原に建てた私設天文台へ行く,という生活をしている。
これが卒業文集に寄せた私の言葉でした。当時、私は藤井旭さんたちの「白河天体観測所」に対するあこがれでいっぱいでした。気のあった仲間達と共同の天文台を建て,星を眺めながら楽しく過ごす週末。これは小さい頃からの私の夢でした。
1981年。桐生星の会の須永さんが全自作の3.6mドームを完成させます。何度かおじゃまさせていただくうちに、思いはますます募るばかりです。しかし、実現しないからこそ夢なのでしょうか。なかなか私設天文台は現実のものにはなりませんでした。

 2.回り道

○自宅の建設
就職し、結婚もして子供も産まれました。以前より遠征観測は少なくなってしまいましたが、天文活動はそれなりに続けていました。そして、自宅を建設する話が持ち上がりました。ふつうならここで一緒にドームも、となるところです。しかし、2階建ての家の中をコンクリートの基礎が何mもたちあがるというのはかなり特殊な状況です。でも、せっかく作るのですから、振動で使い物にならなかったでは済まされません。もちろん、資金の問題もあります。それから、赤道儀およびメイン鏡筒の選定でも、なかなか「これだ!」と思うものが決まりません。そこで、庭に4m×4mほどのドーム建設用地を確保し、とりあえず住居部分だけを建てることにしました。
自宅完成後は、K産業のHさんに自宅まで来ていただき、新発売になったマウナケアドームの詳しい話を聞き、見積もりまで出してもらったのですが、このあたりから私の心の中に迷いが出てきました。果たして、自宅ドームで何がどこまでできるのだろうか?という迷いです。当時、ニフティにあった天体望遠鏡フォーラムでは眼視におけるドームのマイナス点が論じられていました。要するに気流がとても悪化するのです。スライディングルーフにするか、はたまた郊外に観測所を建てるか、決断が下せません。
○ベランダ観測
私のこれまでの天文ライフは星雲星団の観望と写真撮影が中心でした。群馬県といえども人口12万人ほどの桐生市でも街の明かりはかなり邪魔です。ここでは、星雲の観望は楽しめそうにありません。きっと遠征観測は続けると思います。それならば自宅で何をするのか?。冷却CCDがぼちぼち使われ始め、その有効性は十分わかっていたつもりですが、まだまだ高価でした。だったら、月や惑星を対象にすることが考えられます。でも、気流の悪い北関東で、しかもドームの中では満足できる結果は得られない気がします。それに、そもそも惑星をきれいに見ることのできる望遠鏡は持っていません。
それならば、ベランダに赤道儀を置いて、お気楽観望をしていれば十分ではないか。いつのまにか、そんなふうに思うようになってきました。そんなとき、先輩のUさんがEM-100赤道儀を譲ってくれました。これでベランダ設置機材は確保できました。DE=VICO彗星や1997年3月の部分日食、最近のデジカメによる月の撮影などではこの赤道儀が活躍してくれました。Meadeの2120LX-5(自動導入できるLX-200よりずいぶん古い)は、鏡筒部分を何とか外し、この赤道儀に載せてみたりもしました。でも、ベランダではちょっと動いただけで震動してしまいます。土星の撮影なんてとうてい無理です。う〜ん、やっぱりドームは夢です。
○ぐんま天文台の完成
1999年の春、ぐんま天文台がオープンしました。早速講習会に参加し、利用資格を取得しました。ここには十分な機材がそろっており、観察用望遠鏡を使って気軽にCCD撮像ができます。空もまずまずですし、自宅から2時間弱の距離も遠征を考えれば同じようなものです。こうなると、自宅天文台の意義が半減してきました。なにせ、1晩500円で思い描いていた以上の機材が自由に使えるのですから。費用を考えれば1000回通っても自宅ドームより割安です。案の定、定期的に通うようになり、自宅ドームへの想いがやや薄れてきてしまいました。

 3.やっぱり欲しい

○冷却CCD
ぐんま天文台のオープンと同じ頃から、デジタル天文ライフが急速に浸透してきました。群馬星の会のメンバーやその他の知人も自宅ドームの建設が相次ぎます。そんな方の楽しそうなお話を聞いたり、活躍を目にしたりしているうちに,「やっぱりドームを建てたい」という気持ちが膨らんできました。星の会顧問の大島さんは「ドームがあると機材の使用率が飛躍的に上昇するし、遠征観測に比べて家族にかける心配や迷惑も減るよ。」とおっしゃいます。さらに「冷却CCDなら自動化が進められるから、今までより楽に撮像できるので、星を楽しむ余裕も生まれるよ。」とか「ぐんま天文台もいいけれど、自宅なら予約せずに使い放題だよ。特に天文現象のあるときには占有したいよね。」などなど、魅力的な言葉をたくさんかけていただきました。
○鏡筒のこと
毎年、秩父星の里で行われている「星空の音楽会」に参加していたときのことです。群馬星の会の須田さんに観測所の建物について相談していたら、「25cmのニュートン鏡筒、使ってていいですよ。」とのとってもうれしいお話をいただきました。25cmのF6、斜鏡は遮蔽率の小さいものと交換できるようになっている特別仕様です。棚からぼた餅、果報は寝て待て。いろいろなことわざが浮かんできてしまいました。
○建物(ドーム)のこと
2001年初夏、星の会の川上さんが全自作による3階建ての3.6mドームを完成させます。川上さんは知る人ぞ知る白河天体観測所のメンバーで、あのチロ望遠鏡も手がけている方です。ドームを見学させていただいた折、観測所のことを相談してみました。我が家は西から北にかけて山に囲まれている上、庭に残した観測所用地からでは、東側も母屋にさえぎられてしまいます。そのため、川上さんのように3階建てとは行かなくても、せめて2階建てにしたいと話してみたところ、「1階部分をうちと同じようにコンクリートの箱型にするんだったら、請け負ってやるよ。」とおっしゃってくださったのです。ドームのことを知り尽くしている上、建設会社の専務さんである川上さんなら、これ以上の方はいないでしょう。さっそく希望を伝え、図面を書いていただくことになりました。
一方、ドームについてですが、これは群馬星の会で2001年から開設しているメーリングリストから情報が流れてきました。夏のある日、会員のNさんから「静岡の個人業者にドームを発注する計画があるんだけれど、ほかに頼む人がいれば安くなるので誰か一緒に注文しませんか」とのお誘いメールが来たのです。ここまできたらこの流れに乗らない手はありません。早速、問い合わせをして具体的な話を聞いていただくことになりました。それによると、価格は有名メーカーの半額程度、3mドームが観測室付きで100万円ちょっと、というのです。Nさんの知り合いがすでに発注してあるらしいのですが、その完成を待って決定することにしました。
    
○赤道儀のこと
そうなると次は赤道儀です。希望を言えば、大島氏が使用しているS社の25E赤道儀クラスがねらい目です。しかし、モデルチェンジをしたら一気に価格が跳ね上がってしまいました。もう少し低価格のものをと思い、A社の1200GTOを考えましたが、納期がずいぶんかかる上、実際に使っている方の話を聞く機会がありません。しかし、CCDに使うのであればやっぱり自動導入できる機種にしたいものです。T社のEM-500も候補のひとつですが、100万円を軽く超えてしまいます。そんな折に発表されたS社の新型20E。スカイセンサーが付属するなどなかなか魅力的な赤道儀の登場ですが、搭載重量がやや少なめです。いっそC社のHG-25にしようかとも考えましたが、もう少し検討を重ねることにしました。
すると、前述の川上さんから「俺が昔自作した赤道儀があるけど、よかったら使ってみるかい。」と、またもやうれしい話をいただきました。なんでも、スカイセンサー2000PCを取り付けて生き返らせようという計画らしいのですが、天文雑誌にも載っていないような方法を思案中とのことです。まだどうなるかわかりませんが、連絡を待つことにしました。

 4.やっと決断

○決断
鏡筒はO.K.。赤道儀もまあなんとかなりそうです。建物も大丈夫。ドームは資金さえあれば専門業者に発注できます。これについては、Nさんの問い合わせた個人業者が結局は有名メーカーとあまり違わない価格になってしまいそうだとの連絡をいただき、ちょっとがっかりしていたところでした。そう、最後の問題は資金です。住宅を建てたときのローンがまだまだ残っています。実はドームを建てる余裕があるのなら、それを住宅金融公庫への返済に当てれば数百万円の得になる(正確には利子による損失が少なくてすむ)事に気づき、少しずつそれを実行してきました。できれば返済を完了させたいところですが、それではいつになってもドームは建てられそうにありません。この先、返済がどうなるか不安は残りますが、いつしか家を建てたときと同じ心境になってきました。それは「早く建てれば、それだけ早く、長く使える」という考えです。当たり前のことですが、安くはない買い物なのでどうしても慎重になってしまいます。しかし、この上ない状況がいくつも重なってきた今こそだと思い、着工を決意しました。
○仕様
2002年4月現在、構想している仕様は以下の通りです。
    
鏡 筒……口径250mmニュートン式
       焦点距離1500mm(F=6)
       鏡筒重量24Kg位
       鏡筒内面植毛紙貼り付け済
       タカハシMT200用接眼ドローチューブ(レデューサー取り付け可能)
       同上用大型斜鏡
       同上用改良スパイダー(前橋至誠堂製)
       主鏡両側面換気ファン(12V)設置
       主鏡9点支持金具、光軸調整装置
       タカハシ7×50mmファインダー
       鏡筒バンド、プレート、回転用ハンドル付属
 
赤道儀……川上氏自作ドイツ式。
       スカイセンサーによる自動導入(詳細はまだ不明)。 
建 物……土台(1階)部分は川上氏によるコンクリート製。1辺3mの立方体のような箱型。
           観測室&ドームは日新商会製3.0m。  
CCD……BITRAN製 BJ-41L
  
2002年4月末日。まずはCCDを入手しました。そして7月には、いよいよドームの発注を済ませました。ここから先は新着日記(2002年8月〜)でどうぞ。
 
2003年8月 着工1周年が経ったのを契機に、新着日記を再編成した ドーム建設報告 のページを作りました。
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