2001.11.23(金)〜24(土)ぐんま天文学校

 昨年度は「天文観測研究講座」に参加しましたが,今年度はぐんま天文学校」と講座名が変わりました。内容も単発のものが3回行われるそうです。第1回は「CCDカメラをきわめてみよう」。これは天文台にある冷却CCDカメラを利用して,CCDの特性を測定したり,その違いが実際の画像にどのように影響するのかなどを調べたりする講座でした。私が今回受講したのは第2回の「分光器を使ってみよう」です。天文台のWebには「分光観測から得られる情報(天体の温度,組成,速度)について考えます。星の温度,惑星状星雲に含まれる元素,宇宙膨張の解析を行ないます。」という,なんとも魅力的な紹介文がありました。
 宿泊の関係で定員は10名。これまでの観測経験や天文学校での抱負を書いた応募用紙を送ったところ,運良く「受講可」の知らせが来ました。
 11月に入ると講座で使うテキストが送られてきました。カラーページもある立派なものでした。内容は難しそうな部分もありますが,「理解できないところがあっても,当日の学習についていけないというわけではございませんので,あまり深刻にならなくて結構です。」という,こちらの心理をしっかり把握されている一文がついていました。


さて,いよいよ当日です。 
1日目の日程は
13:00− ○開会あいさつ,諸連絡
13:30− ○スペクトルとは(講義)
14;30− ○2F展示室の分光模型見学
14:45− ○太陽分光器の見学
15:00− ○直視分光器による観察(実習)
15:15− ○スペクトルから組成を調べる(講義)
17:00− ○スペクトルから速度を調べる(講義)
18:00−   食事休憩
19:00− ○天体のスペクトルからわかること(講義)
21:00−   休憩
21:30− ○晴れの場合:65cmによる分光観測体験
        曇りの場合:65cm望遠鏡と小型分光器の見学
24:00   ○観測終了
このようになっていました。

テキストの上に置かれた
回折格子フィルム

スペクトルとは(講義)
はじめの講義は,大林氏によるスペクトルの概論でした。スライド用のマウントに入ったシート状の回折格子フィルムを使って,天井の照明や外光,ネオンランプなどを観察しました。また,昨年行われた「科学の祭典・群馬大会」の際,ぐんま天文台のブースでいただいてきた簡易分光器も活躍していました。下の写真はデジタルカメラで手持ち撮影しただけですが,雰囲気はわかると思います。(水銀とネオンは,どちらだったかあまり自信がありません)
回折格子フィルムで見た外光 簡易分光器だとこんな感じ 天井の照明は特殊な物だそうです
白熱電球は連続スペクトル 水銀ランプ?は線スペクトル こちらは確かネオンランプ

2F展示室の分光模型&太陽分光器の見学
次は展示室にあるスペクトルの模型や太陽スペクトルの観察です。機械の内部や太陽望遠鏡の制御室まで見せていただきました。太陽黒点の位置にスリットを合わせ,黒点のスペクトルも観察させていただきました。ふだん,何気なく見ていた装置でしたが,とてもおもしろい物です。
太陽のスペクトル(中央にある横向きの黒い線は黒点によるもの
制御室の様子 スリットが見えています

スペクトルから組成&速度を調べる(講義)
見学のあとも講義は続きます。今度はスペクトルから組成や運動を調べる原理です。高校の物理でやった内容とほぼ同じなのですが,大学院で学び直していなかったらちんぷんかんぷんだったかもしれません。
この講義の中で特に興味を引かれたのが,土星のスペクトル画像でした。研究室のゼミで「土星の環が1枚の板のような物ではなくて,細かい粒子の集まった物であるというのは,スペクトル観測からわかった」と聞いていたのですが,それを見たことはなかったからです。環のスペクトルもドップラー効果で斜めになっているのですが,よく見ると,たしかに剛体の回転よりも内側が速いケプラー回転になっているようでした。
 この画像の出典を尋ねたところ,裳華房から発刊予定の−宇宙スペクトル博物館<可視光編>天空からの虹色の便り−に掲載されているとのことでした。数日後,この書籍の案内がちょうど届いたので,すぐに注文してみました。<X線編>を持っているので,出来栄えには何の心配もしていませんでしたが,予想を越えるすばらしさでした。
宇宙スペクトル博物館(CD-ROM+B5版ガイドブック)はその一部を「体験版」として試すことができます。興味のある方は裳華房のWebまで。

天体のスペクトルからわかること(講義)

夕食後は橋本氏による講義です。このころになると疲れもたまってきますし,内容もさらに専門的になってきます。身振り手振りを交えての勢いある説明なので全然眠くはなりませんでしたが,「内容にはちょっとついて行けてないなあ」というのが率直な感想です(あくまで,私の場合です)。 橋本氏によると,「大学で半年かけて学ぶ内容を2時間で話してしまった」とのことでした。
  
65cmによる分光観測体験
次は実際に天体の分光観測をおこないました。はじめに河北氏から分光装置の説明を受けます。よく設計されているなと感心させられました。そして,いよいよ天体の撮像です。この日は折しもリニア彗星(C/2000 WM1)が接近中だったので,その画像をプロジェクターで映しながら濱根氏に解説していただきました。細いスリットに天体を導くためのガイドCCDにはSBIGのST-8が使われていましたが,思わず「う〜ん,贅沢だ。」とうなってしまいました。
次の対象天体は参加者のリクエストに応えてくれるというので,すぐさま,M1(かに星雲)を頼みました。惑星状星雲特有の輝線よくわかります。較正用の水銀ランプのほか,赤色巨星やおうし座T型星の変光星などいろいろ撮像していただいたのですが,メモも取らなかったので,画像がどの天体のものなのか整理できていません。もったいないことです。
これが分光装置 仕組みを説明する河北氏 リニア彗星のスペクトルと濱根氏
ST-8で天体をスリットに導く 輝線がはっきり見えています こちらは吸収線がよくわかります
これはかに星雲(M1)のスペクトル? これはなんだったかな 最後は土星のスペクトル
天候にも恵まれ,予定の時刻を越えてしまいましたが,なんとか午前1時過ぎには宿舎に到着しました。直前にあったしし座流星群の話題など,楽しい話が尽きなかったのですが,午前3時半頃眠りにつきました。

2日目

今日の日程
10:00− ○天文ソフト「BeSpec」を使った実習
12:00−   食事休憩
13;00− ○銀河の後退速度を測る(実習)
16:00− ○ハッブル則について(講義)
17:00     終了

○「BeSpec」を使った実習

 今日は実習中心です。二人に一台ずつ渡されたノートパソコンを使って,まずはクェーサー3C273の後退速度を求めました。水素原子の出すバルマー系列のうち,HβとHγの光の波長がどれくらいずれているかを元に計算していきます。次は,超新星SN2001bgです。今度は吸収線の幅が超新星の膨張速度によるものだとして計算を進めていきます。同じ方法でかに星雲M1の膨張速度も算出しました。自分の手で計算してみると,分光によって天体のいろいろな情報を知ることができることが実感できます。ここで使ったBeSpecというソフトは美星天文台のホームページから入手することができます。

○銀河の後退速度を測る(実習)&ハッブル則について(講義)
 昼食のあともBeSpecを使った実習です。それに先立ち,長谷川氏の講義がありました。(ここでも数式がたくさん出てきて,ちょっと大変でした。)今度は過去にIa型超新星が現れた銀河の後退速度を,銀河のスペクトル中にある輝線や吸収線から測定していきます。Ia型超新星は本来ほぼ一定の明るさであると考えられており,見かけの明るさのちがいは我々からの距離のちがいによるものです。それを利用して,銀河までの距離と後退速度の関係を求めていくとのことでした。ここでは,輝線を利用するものと吸収線を利用するもの,比較的測定しやすいものとしにくいもの,というようにいろいろな銀河のデータを提示していただき,参加者全員で手分けをして調べていきました。なかでも難しいと感じたのが吸収線によるものです。「地球大気による吸収線」ということが全然念頭になかったため,苦労させられました。結果としてはまずまずの値が出ていたようです。
実習で求めた銀河の距離と後退速度との関係
 実習の最後は,わし座にある興味深い天体SS433の正体を推測しました。これは通常のHα線の他に大きくずれた輝線があります。さらに,わずか5,6日の間隔を置いて撮像したスペクトルでも,その位置が変わっているのです。いろいろ議論したあげく,かなりいい線をいっているモデルが導き出されていました。(わたしは岡崎彰先生の名著「奇妙な42の星たち」で読んである程度のことは知っていたので,だまっていました。)でも,本当になぞの多い天体ですね。
 
 2日間にわたる天文学校でしたが,あっという間に終わってしまいました。天文台の方々,たいへんお世話になりました。
 次回は「銀河を数えてみよう」ですが,こちらにはちょっと参加できそうにありません。来年度もぜひ,おもしろい講座を企画していただきたいと願っております。

トップページ ぐんま天文台レポート 研究室だより |