空気の揺らぎ 〜望遠鏡向きの春の空〜(第14回 4月4週)

  
 月のクレーターは、私たちがふつう手にする望遠鏡でくっきりと見ることができます。時にはまるで宇宙船から見ているような気にさせられることさえあります。また、土星のかわいい環や木星の縞模様、金星の満ち欠けの様子も十分楽しめます。
 ただ、地球には厚い空気の層が取り巻いていて、高い倍率をかけたときほどその影響がでてきます。特に冬場の冴え渡るような星空の日は暗い星まで見える反面、空気がゆらゆら揺れてしまい、倍率を上げても細かいところまでは見えてこないことが多いのです。
 HSTをご存じでしょうか。これはアメリカ合衆国が打ち上げたハッブル・スペース・テレスコープの略です。人工衛星に望遠鏡を積み込んで、地球の大気圏外で観測すればやっかいな空気の影響を受けないという考えが現実の物となったのです。この望遠鏡は口径が2.4mと、昨今の大望遠鏡に比べれば特別大きな物ではありません。しかし、とても大きな天文学的成果を上げてきています。
  日本の国立天文台がハワイのマウナケア山頂に設置したすばる望遠鏡は、口径が8.2mもあります。この望遠鏡にはその性能を最大限引き出すために、大気の揺れを極力おさえる最新技術が搭載されています。簡単にいうと、ビデオの手ぶれ補正機能をいくつも組み込み、大気の揺れをキャンセルしてしまうとでもいいましょうか。すばらしい性能の望遠鏡ですから、調整が進み、この装置が本格的に動き出せば、かつてない大発見をしてくれることでしょう。 
 暖かくなるにつれ、空気中の水蒸気が増え、なんだか眠たいような夜空の日が多くなってきました。しかし、春霞のかかったような空は空気が落ち着いていて、案外望遠鏡向きの日だったりします。もし、望遠鏡をお持ちでしたら、思いきり高い倍率を試してみるいい機会だと思います。

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追加情報(2004.04.23)
上記のように天体像は空気の揺れの影響を受けますが、その程度を示すものをシーイングと言います。夏の日差しで暖められたアスファルト越しに遠くの景色が揺らめいて見えるのも、同じく空気の揺れによるものです。強い風の吹く冬などは、10〜20秒角に達する場合もあるため、望遠鏡の見え味だけでなく、写真に撮ったときの像にも大きな違いが現れます。
左の像は、台風並みに強い風が吹き荒れた時のもので、シーイングは最悪でした。翌日の画像と比べてみてください。
2004年4月21日
強風(10分間平均で10m/s以上、最大瞬間風速27.6m/s)
2004年4月22日
無風